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ひぐらしの中学生日記(5) [雑文]

【エピソード5】 ひぐらし死亡事件

 この話は、正確に言うと、中学生のときの話ではない。僕が就職し、会社の寮に入って間もない頃の話である。中学校の同級生(別のクラス)に僕と同じ姓の男子生徒がいた。その彼が何かの病気で亡くなった。若くして亡くなったのだから、これはこれで気の毒な話ではある。しかし、このとき情報が錯綜し、同じ苗字の僕が亡くなったという噂がたってしまった。

 お袋の話によるとY田とH野が、ある日の夕方、突然黒いスーツに黒いネクタイを締めて、神妙な顔をして現れ「このたびはひぐらし君が亡くなったそうで・・・」と言う。お袋は仰天した。「まさか」と思ったが、万が一ということもある。とにかくY田とH野を家に上げ、会社の寮に電話をした。このときは動悸が激しくなり卒倒寸前だったらしい。

 電話には寮長が出て「ひぐらし君は今、外出しています」と言う。お袋はやっぱり何かの間違いだと思い、さりげなく「あの子は元気にしていますか」と聞くと、「ええ、元気ですよ」と言われたという。帰宅したらうちに電話するように頼んで電話を切った。

 その日、寮に帰ったとき、寮長から自宅に電話するように言われたので、何かと思って電話してみた。そして、お袋から話を聞いて爆笑してしまった。Y田とH野も、万一の可能性を思って実家に待機していたので、電話で話した。「おお、生きてたか! 俺、香典まで持って来たんだぞ。でも、なんかおかしいと思ったんだよ。だって通夜だったら、提灯が下がってたり、人が大勢いたりするだろ。でも普通だしよぉ・・・・」

 この後の、いつかの同窓会でみんなで会ったときに、この騒動が話題になった。そのときまでは、Y田とH野が来てくれたことしか知らなかったが、その他の連中がどんな動きをしたのかをこのときに知ってしまった。

 まずIA子。彼女は、どこからか僕が死んだという話を聞いて、クラスのみんなに電話連絡をしてくれた。そのとき、連絡したうちの誰かが正しい情報を持っていて、間違いだということがわかり、こちらは収束したらしい。

 H崎は、僕の家でなく、本当に亡くなった方の通夜に行ってしまった。祭壇に飾られた写真を見て、最初「ひぐらしは顔が大分変わったな」と思い、やがて「なんかおかしい。間違えたな」と気づいたらしい。でも、間違えたから香典を返してくれと言うわけにもいかず、そのまま帰ってきたという。その同窓会でH崎から聞いた言葉が忘れられない。「ひぐらしとはUコンで一緒に遊んだ仲だからよ」

 こういうとき、女の子は結構冷静に行動するものらしい。一方で、Y田とH野とH崎は、フライングして恥をかいたことを、電話や同窓会で自嘲して面白可笑しく語っていたが、僕の立場から言うなら、彼らは、何はともあれ真っ先に来てくれたわけで、特別に深い感謝を感じる。とにかく「自分が死んだら、みんなこうやって動いてくれるんだな」と、しみじみ嬉しくなった事件だった。
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