ラジオにまつわる思い出話(1) [ラヂオ]
最近ではあまり流行らないようだが、僕が子供の頃は、電子工作に夢中になる少年が少なからずいた。そういう少年たちは昔を振り返って「俺は昔ラジオ少年だったんだよ」なんて言う。この場合のラジオというのは、放送を聴くためのいわゆる「ラジオ」という機器を指しているのではなくて、「電子工作」の意味なのだが、その対象がラジオになることが多かったので、そのように表現するのである。
秋葉原には、「○○ラジオ」「ラジオデパート」など、「ラジオ」という名前の店がたくさんある。同様に「○○無線」という店もかなり多い。戦後の復興の中から、秋葉原という電気街が出来た頃は、無線通信技術が時代の最先端技術だった。そしてラジオとはそれを象徴するものだったのである。ちょうど今の情報技術(IT)とコンピュータの関係に似ている。こうした店の名前が、この時代の名残であることは明らかである。
さて、僕が小学校6年生の頃のことだから、今からもう35年前のことになる。当時、僕の通っていた小学校は、1学年でクラスの数が3クラスだった。しかし、だんだん人口が増えてきて、僕らよりも下の学年から1学年が4クラスに増えた。学校には教室が足らなくなり、やがて新しい建物ができたのだが、それが完成する前の暫定策として、僕らが6年生になったとき、なんと学校の図書室を潰して僕ら6年3組の教室にあてた。もともと図書室だったから教室には本がたくさんある。それまで本など全く読まなかった僕が、本に目覚めたのはこのときである。
最も興味を引いたのは天文と電気だった。天文の話は別の機会にでもすることにして、今は、電気関係の話に限定する。子供向けの科学の本に、「鉱石ラジオ」というのが載っていて、ごく簡単な回路を組むと、ラジオが聞こえることが書いてある。しかも電池が要らない。すごい! 本当か? 僕は確かめてみたくなり、その本に載っている回路を、部品を買って組んでみようと思い立った。
コンデンサ、バリコン、鉱石検波器。こういうのってどこに売っているんだろう。街の電気屋さんしか思い浮かばない。家のすぐ近くに「T無線」という小さな電気屋さんがあった。ここは普通の家電屋さんだったが、豆電球とか電池とかも売ってたから、工作をするときによく行く店だった。しかも同級生の女の子の家だった。
店のおばさんはこの女の子のお母さんで、僕が行くと、やたら愛想が良く、僕をかわいがってくれた。しかし、おじさんの方はやたら無愛想で、いつも「何しに来た」と言いたげな顔をしている。いつも電池や豆電球みたいな、安いものしか買わないからだろうか。いや、それとも「うちの娘に近づくんじゃねえぞ」と威圧していたのだろうか。僕にはその気はなかったんだけど。
さて、T無線に行ってみたが、その手の部品はなかった。だから、街で一番大きな電気屋さんに行ってみることにした。ここには大手の家電専門店の「朝日無線」があった。(のちの「ラオックス」の前身)しかし、大手とは言え、やはり所詮は家電製品を売る店であって、部品などおいてあるはずはなかった。
ところが、である。この朝日無線の兄ちゃんが、貴重な情報を提供してくれた。「そういう部品が欲しいなら、S電子部品商会に行けばおいてあるはずだ」という。それはどこにあるのかと聞くと隣町だった。
隣町は電車でひと駅行ったところである。僕はその町まで一人で行き、商店街のあちこちで、「S電子部品商会はどこか」と聞いて回り、ようやく場所を突き止めた。小学生にしては、結構な行動力だったと思う。思い立ったら一人で突っ走る現在の性格は、この頃すでに形成されていたようだ。
その店に行ってみた。小さな店だった。「掘っ立て小屋」という表現がぴったりである。中に入ると、ベークライト(注1)の匂いがプンプンする。狭い店の中に電子部品が所狭しと並んでいる。「すごい!」 初めてみる電子部品の集まりが、まるで宝の山のように見えたのを覚えている。(つづく)
(注1)ベークライト
熱硬化性プラスチックの一種 。鼻を近づけると、かすかにホルマリンの匂いがする。電子部品の配線のときには、半田付けの熱がかかるが、このプラスチックは熱をかけても溶けないので、昔から配線板に多用されてきた。最近では、ガラスエポキシに変わっている場合が多いが、安価なものは今でもベークライトである。
秋葉原には、「○○ラジオ」「ラジオデパート」など、「ラジオ」という名前の店がたくさんある。同様に「○○無線」という店もかなり多い。戦後の復興の中から、秋葉原という電気街が出来た頃は、無線通信技術が時代の最先端技術だった。そしてラジオとはそれを象徴するものだったのである。ちょうど今の情報技術(IT)とコンピュータの関係に似ている。こうした店の名前が、この時代の名残であることは明らかである。
さて、僕が小学校6年生の頃のことだから、今からもう35年前のことになる。当時、僕の通っていた小学校は、1学年でクラスの数が3クラスだった。しかし、だんだん人口が増えてきて、僕らよりも下の学年から1学年が4クラスに増えた。学校には教室が足らなくなり、やがて新しい建物ができたのだが、それが完成する前の暫定策として、僕らが6年生になったとき、なんと学校の図書室を潰して僕ら6年3組の教室にあてた。もともと図書室だったから教室には本がたくさんある。それまで本など全く読まなかった僕が、本に目覚めたのはこのときである。
最も興味を引いたのは天文と電気だった。天文の話は別の機会にでもすることにして、今は、電気関係の話に限定する。子供向けの科学の本に、「鉱石ラジオ」というのが載っていて、ごく簡単な回路を組むと、ラジオが聞こえることが書いてある。しかも電池が要らない。すごい! 本当か? 僕は確かめてみたくなり、その本に載っている回路を、部品を買って組んでみようと思い立った。
コンデンサ、バリコン、鉱石検波器。こういうのってどこに売っているんだろう。街の電気屋さんしか思い浮かばない。家のすぐ近くに「T無線」という小さな電気屋さんがあった。ここは普通の家電屋さんだったが、豆電球とか電池とかも売ってたから、工作をするときによく行く店だった。しかも同級生の女の子の家だった。
店のおばさんはこの女の子のお母さんで、僕が行くと、やたら愛想が良く、僕をかわいがってくれた。しかし、おじさんの方はやたら無愛想で、いつも「何しに来た」と言いたげな顔をしている。いつも電池や豆電球みたいな、安いものしか買わないからだろうか。いや、それとも「うちの娘に近づくんじゃねえぞ」と威圧していたのだろうか。僕にはその気はなかったんだけど。
さて、T無線に行ってみたが、その手の部品はなかった。だから、街で一番大きな電気屋さんに行ってみることにした。ここには大手の家電専門店の「朝日無線」があった。(のちの「ラオックス」の前身)しかし、大手とは言え、やはり所詮は家電製品を売る店であって、部品などおいてあるはずはなかった。
ところが、である。この朝日無線の兄ちゃんが、貴重な情報を提供してくれた。「そういう部品が欲しいなら、S電子部品商会に行けばおいてあるはずだ」という。それはどこにあるのかと聞くと隣町だった。
隣町は電車でひと駅行ったところである。僕はその町まで一人で行き、商店街のあちこちで、「S電子部品商会はどこか」と聞いて回り、ようやく場所を突き止めた。小学生にしては、結構な行動力だったと思う。思い立ったら一人で突っ走る現在の性格は、この頃すでに形成されていたようだ。
その店に行ってみた。小さな店だった。「掘っ立て小屋」という表現がぴったりである。中に入ると、ベークライト(注1)の匂いがプンプンする。狭い店の中に電子部品が所狭しと並んでいる。「すごい!」 初めてみる電子部品の集まりが、まるで宝の山のように見えたのを覚えている。(つづく)
(注1)ベークライト
熱硬化性プラスチックの一種 。鼻を近づけると、かすかにホルマリンの匂いがする。電子部品の配線のときには、半田付けの熱がかかるが、このプラスチックは熱をかけても溶けないので、昔から配線板に多用されてきた。最近では、ガラスエポキシに変わっている場合が多いが、安価なものは今でもベークライトである。
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