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ひぐらしのルーツ(4) [雑文]

(つづき)
 M建設の仕事は、京葉工業地帯の造成のための海岸の埋め立て工事だった。時代が時代だけに、顧客(つまり千葉県)はイケイケでどんどんお金をつぎ込んでいたらしい。つまりものすごく忙しい時期だったということである。人手不足のM建設(親父を含む)は、いきつけのガソリンスタンドに「事務員を探しているんだが誰かいい人いないかね」と、相談を持ち掛けた。

 前の記事に書いた通り、このガソリンスタンドには、お袋の友達のMっちゃんが勤めていた。ある日、Mっちゃんは、うちのお袋と町で出会ったときに、この ”M建設、事務員募集” の話をした。このとき ”お袋自身が応募する” という選択肢も当然あったわけだが、お袋はそのとき、海産物の商いが楽しくて、会社勤めをする気は全くなかったと言う。結局お袋は自分の妹(つまり僕の叔母)(注1)を紹介した。

 当時は高度経済成長期だったから、M建設だけでなく、世の中のどの会社も目が回るほど忙しかったと思う。現代のようにワークライフバランスなどという概念は無かったはずだし、これからの日本を作るという志を持ってみんながむしゃらに働いていたに違いない。当然残業も多かっただろう。仕事の帰りが遅くなると、M建設の社員が叔母を家まで車で送り届けるのが慣例になっていた。その送り届ける人の中に、うちの親父がいたのである。

 母方の祖父は、M建設の若い衆が叔母を送ってくると、歓迎していつも食事を振る舞ってもてなしていたそうである。これは、娘が世話になっているからという理由ではなかったようだ。祖父はただ純粋に、人と一緒に食事をしたり、酒を飲んだりするのが好きな人だったらしい。たぶん若い衆を可愛がって、「おおよく来た、まあ飯でも食っていけ」、と呼び入れ、若い衆は遠慮しつつもその迫力に負けて、ついつい上がってしまったのではないだろうか。

 さて、その家にお袋がいた。こうして親父とお袋の運命が繋がった。
(つづく)

***
(注1)以前、叔父が亡くなったときに書いた記事に登場したあの叔母である。
参考URL。
叔父の死(2008年の記事)
http://shonankit.blog.so-net.ne.jp/2008-12-21

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IA子

生まれていない時代の話なのに、その情景が目に浮かびます。
自分の親の馴れ初めなんて、なかなか面白いテーマですね。

私は20年以上も前に父を亡くし、母も80歳を過ぎて
すこしずつ話すこともはっきりしなくなってきました。

ぜひ、ご両親がお元気なうちにたくさん話をきいておいて下さい。

続きを楽しみにしています。
by IA子 (2016-07-13 12:49) 

ひぐらし

IA子さん、コメントありがとうございます。両親の馴れ初めはメインテーマではないのです。でも、自分のルーツを探ろうとすると、ここに触れないわけには行かない。出会ってくれないと生まれませんから。(笑)完全に自己満足の世界ですが、書いていて結構楽しいです。
by ひぐらし (2016-07-14 02:05) 

ひぐらし

IA子さん、よく考えてみたら、自分のルーツを探ることと、両親の馴れ初めを語ることはほぼイコールなんですね。両親の出会いまでの歴史を語るつもりだったのですが、それがすなわち平たく言えば、馴れ初めというわけで。
by ひぐらし (2016-07-17 14:42) 

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