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源氏物語を読みたい(3) [読書]

(引き続き、「あさきゆめみし」を読んで考えたこと。前の記事からのつづき)

 さて、そのバックアップ体制が充実して皇子がたくさん生まれ、その中から、一人が後を継いで次の帝になったとする。そうすると、それ以外の子供は当然帝にはなれない。そういう人は「○○の宮」として、皇室に残る場合もあるが、皇室から離れて臣下に下る場合もあって、そのときは「氏(うじ)」(今日的な意味での苗字)をもらう。それが「源(みなもと)」であったり、「平(たいら)」であったりしたのだという。桐壺の更衣が男の子を生んだとき、帝にはすでに第一皇子がいた。だからここで後継者争いが起こらないよう、帝はこの子が元服したときに「源」の氏を与えて臣下に下ろした。これを臣籍降下という。(ここ重要)

 少し話がそれるが、ちょっと源氏物語の中の人物の呼び方について考えてみたい。この物語の読みにくさを作っている原因のひとつに、人の呼び方があると思うからである。ある人物をどのように呼ぶか、というと、現代人の我々は、その人の名前で呼ぶのが当たり前だと思っている。日常生活でも小説でももちろんそうだ。しかし源氏物語の場合、必ずしもそうではないことに気づかされた。

 平安時代の戸籍の制度は、今のように厳密に管理されていたとは思えない。だから、自分で好きなように名乗ることができたはずである。また宮中では固有名詞よりも役職(地位)の方が大切であったようだ。左大臣、右大臣、大将、中将、女御、更衣、などなど。他に一の宮、二の宮、三の宮などと、生まれた順番だけで呼ばれる人もいる。源氏物語の登場人物は、おしなべてそういう呼び方になっている。はっきり言ってしまえば、人の呼び方なんかどうでもいいような印象を受けるのである。

 さてここから本題。呼び方と言えば僕は昔から「光源氏(ひかるげんじ)という呼び方はどこが「姓」でどこが「名」なんだ?」と気になってしょうがなかった。日本では人の名前は姓、名の順に構成されるものである。だから源光(みなもとのひかる)と言うなら納得がいく。それなのに光源氏とはこれ如何に? 「山田太郎」さんに対して、「太郎山田氏」と言っているようなものではないか。こんなキテレツな名前があろうか。しかも、名、姓の順に並べるのは欧米の習慣ではないか。

 そんな話を姉にしてみたら、姉が知り合いの、元高校の国語の先生という人に聞いてくれた。その人によると源氏物語の人物はみなニックネームで、しかもその名前は必ずしも作中で使われているとは限らず、後世の読者や学者が勝手につけてそれが通称になってしまったものもあるのだそうだ。原作(原文)の中では光源氏という呼称は出てこない。原文では「光る君」と呼ばれている。「光る○○」というのはあの時代に美しさを形容するときの最上級だったのだそうで、「最高の美男子」という意味になるらしい。

 その他に「源氏の君」という呼び方もある。少なくとも第一帖の「桐壺」にはその呼び方がいくつか出てくる(注1)。これは僕の考えだが、「帝の子供でありながら、源(みなもと)という氏(うじ)を賜って臣下に降りた、かっこいい人」という意味で「源氏の君」という呼称が生まれたのではなかろうか。源氏の姓をもらったばかりの時期に、彼の周囲にいた人たち、特に女性がキャーキャー言いながらそのように呼びたくなるのは自然である。「キャ~源氏の君~~」って。

 そうすると「光る君」「源氏の君」「光る源氏の君」から変化して「光源氏」というニックネームが生まれ、それが後世の読者や研究者の間で自然に定着したとしても不思議ではない。長年の疑問がようやく解けた。

*     *     *

 というわけで、今年の大型連休は家に籠もりきりではあったが、それなりに充実していた。(一つ仕事を成し遂げたような気がする 笑)なお今回は「あさきゆめみし」をメインにしたが、他にも読んだものがあるのでこれを付記して終わろうと思う。

 江川達也という漫画家が書いた源氏物語。これは青年雑誌に連載されたものだけあって性描写のビジュアルが露骨である。男性の目から見ると大歓迎なのだが(女性が見たら別のことを言うだろうが)、その反面、熟読するとかなりアカデミックな側面を持っている。というのは原文(古文)がコマの中に(おそらく)全部書いてあってそれを逐一現代語に訳しているからである。

 注釈も大変充実している。僕の場合、この年になって古文を復習するだけの情熱はないが、高校生ならば、これを丁寧に読み込むとかなり勉強になるのではないだろうか。(絵が邪魔して勉強にならないか)

 全七巻で一巻が一帖に当てられている。第一巻が「桐壺」、第二巻が「箒木」、・・・、第七巻が「紅葉賀」。つまり全54帖のうちの最初の7帖しかないわけだが、原文を丁寧に説明していることを考慮すればこれだけでも偉業だと思う。

11.JPG
12.JPG


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(注1)江川達也の源氏物語に記載されていた原文で確認した結果

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るるぶぅ

お久しぶりです。光源氏の話は私にもついていけます(笑)
あさきゆめみしは私も読みました。大学受験の時は源氏物語が出ると思って、一生懸命小説の源氏物語を読みましたが、見事に外れました(笑)
光源氏の名前の謎、ひぐらしさんのお陰で謎が解けました。ひぐらしさんの考察は深いですね~。
by るるぶぅ (2020-05-10 15:06) 

ひぐらし

るるぶぅさん、こんにちは。名前の謎については、ネットで調べようとしたのですが、情報がほとんどなかったのです。これに疑問を感じる人がいないということなのだと思います。光源氏という名前を聞いて、なぜみんなおかしいと思わないのか不思議でした。
るるぶぅさんは、受験時代に源氏物語を結構読み込んだのですね。考えてみれば、理系の受験生が数学を勉強するのと同じくらい、文系の受験生は国語を勉強していたわけですかから、源氏物語を読み込んだ人は、僕が認識できていないだけで。意外に多いのかも知れません。
by ひぐらし (2020-05-11 02:25) 

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