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数学思い出話2(極限とは) [数学]

 高校2年生のとき、友達と熱い議論をしたことがある。数学の授業で積分を習ったときのことだった。授業でこんな話を聞いた。

 xy平面上に直線y=xがある。この直線とx軸で挟まれた領域のうち、x=0~1の間の面積Sを求めよ、と言われたらどうするか。もちろん3角形の面積の公式の、底辺×高さ÷2を計算すれば、小学生でもS=1/2(=0.5)と答えは出てしまうのだが、そこを敢えて、積分法的な考え方をしてみる。

 0から1の間をn等分して、短冊をn個作り、この面積の合計を考える。短冊の上の方がギザギザの階段状になっているから、本来求めたい三角形の面積よりも大きくなる。そこで、この分割数をどんどん大きくしていったらどうなるか。

アニメ.gif

 横幅と高さがともに1/nの三角形の面積は、1/n×1/n×1/2。これがn個あるので、ギザギザの面積合計は、1/2nになる。(これは短冊の面積ではなく、短冊の先端のギザギザの面積)(注4)そうすると、短冊の面積の合計S(図の青い部分)は、S=0.5+1/2n となる。

n=10 なら、S=0.55
n=50 なら、S=0.51
n=100なら、S=0.505
n=10000(1万)ならS=0.50005
n=100000000(1億)ならS=0.500000005

・・・というふうに、どんどん計算値が0.5に近づいていく。だから分割数nをどんどん大きくしていけば面積は1/2と求まるだろう、という理屈である。

 授業が終わったあと、友人のA君が、「nをどんどん大きくしても、結局ギザギザは無くならないんだから面積は1/2にはならないよな」と言った。僕は、「いやギザギザは無くなるだろう。だってギザギザが有るというのは、nが1万とか1億とか、そういう有限の数を考えているからだ。無限大なんだからギザギザは無くなる。だから1/2になる」と、自分の理解した考えを話した。でもA君はやっぱりおかしいと言い、僕の説明に納得しなかった。

 結論が出ないので、じゃあ先生に聞いてみようということになり、担当のW先生のいる職員室に押しかけた。議論を一通り説明し、「どちらの言ってることが正しいのでしょうか」と聞いた。するとW先生は「結論から言うとA君が正しい。ギザギザは無くならない」と答えた。が~~~ん。ものすごいショックだった。「え~~? ホントですか?」と、思わず聞き返した。

 そのときW先生は、だいたい次のような説明をしてくれた。(ちょっと脚色あり)
「Pさんが地面に杭を打ち、その周りに柵を作って誰も杭に近づけないようにする。Qさんがその柵を跳び越えて中に侵入する。Pさんは、杭に近づかれないように、さらに小さな柵を作る。するとQさんはその柵も跳び越えて中に侵入してしまう。Pさんがどんなに小さな柵をつくっても、Qさんはそれを飛び越えて杭にどんどん接近してしまう。極限値とはそういうものだ」(注1)

 当時、普段から数学の成績はA君よりも僕の方が良かったし、議論しているときも、自分が正しいという自信があって、「お前、馬鹿じゃねえの?」ってくらいの勢いでしゃべっていたので、このときはショックでしばらく立ち直れなかった。その後、自分を納得させるためにいろいろ考え、結論めいたものをひねりだすのに、何日かかかったと思う。僕の出した結論は、下記のようなものだった。

「何かの値を求めるときに、四則演算で算出する場合もあるが、極限値として求める場合もある。この三角形の面積の例で言うなら、nを無限大にしたときにSが収束していく目標の値を極限操作によって “知る” ことができ、それが求める値である。目標の値は1/2であるから面積S=1/2」 ・・・この結論を出したあとは(正しいか間違っているかはさておき)頭の中が非常にすっきりした。(注2)

 今思えば、A君の説の問題点は、nを有限の値で四則演算しただけだから1/2には当然ならないのであり(そもそもA君はそこがわからんと言っていたのであり)、僕の説の問題点は、 “無限大” という具体的な数字があるように錯覚し、それを式に代入して無理矢理1/2にしていたということになる。A君の言い分は、正しい論理にあとひと押しが足らないだけだが、僕の言っていることは考え方そのものに根本的な問題があった。W先生が「A君の方が正しい」と言ったのはそういう意味だったのだろう。(注3)

 それにしてもこのことをはっきり覚えているのは、A君と議論して負けたことが、ものすごく悔しくて、何度も思い出したからである。しかし、そもそも議論というのは、正しい結論を導くためにするもので、これを勝ち負けの次元でとらえるのはガキの証拠である。その後、僕は議論するときは、努めて紳士的にするようになった。人間として一皮剥けた出来事だったと思う。


***
(注1)W先生のこの説明が、いわゆるε-δ論法とか、ε-N論法と呼ばれるものだと知ったのは、高校を卒業したあとの話。(専門性が高く高校では教えない)

(注2)僕の個人的な考えだが、A君の考え方は、「積分法による計算は近似値の計算である」と誤解するリスクがあると思う。実際にそういう誤解をしている別の友人がいたので。そういう誤解をすることに比べたら、僕の「ギザギザは無くなる」という認識の方がまだマシだろう。少なくとも真の値であることは理解しているのだから。

(注3)下記の式は、それぞれの説を数式で表したもの。
(1)・・・極限値を表した式(正しい式)
(2)・・・A君説「分割を1億にしても1/2にならないではないか」
(3)・・・ひぐらし説「1億とかそんな有限の数じゃないよ。∞だよ」
数式2.jpg

(注4) 2021年3月14日追記
 この1/2nというのは、ギザギザの所だけの計算になっているが、読んだ人から「短冊の面積として求めないとわかりにくい」という指摘があったので追記する。
短冊は、1番目からn番目まで、全部でn個ある。
全ての短冊は、幅は同じで1/n
高さは、1番目が1/n、2番目が 2/n 、3番目が 3/n ・・・・n番目がn/n(=1)
だから面積は、
追記 短冊の面積.jpg


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