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名古屋の旅(2) リニア・鉄道館 [雑文]

 さて、S君の結婚式が終わった翌日は、JR東海の鉄道博物館「リニア・鉄道館」に行った。S君から「ここはすごく人気があって、いつも行列ができているらしい」という事前情報があった。僕は普段は行列に並ぶのが嫌いな人間であるが、滅多に来られない場所なので、多少のことは我慢しようと覚悟を決めていた。

 場所は、名古屋駅から「あおなみ線」という路線に乗っていく港湾地区で、沿線には倉庫がたくさんならんでいる。東京の江東区あたりにそっくりな景色である。終点の金城ふ頭で降りた。「リニア・鉄道館」は、駅のすぐそばにあって、降りる前から電車からみることができる。入り口には、確かに家族連れが列を作っている。でも、まあ、さほど時間はかからずに中に入ることができた。

 お目当ては、C62蒸気機関車である。ちょっと景気づけに動画をどうぞ。
「函館本線SL C62重連ニセコ号 『雪の峠に挑む』」



 僕は、それほどSLに詳しいわけではないけれども、D51とC62だけは昔から知っていた。特にC62は、アニメの「銀河鉄道999」のモデルになった機関車だし、「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画の中で、六子が、青森から集団就職で上京するシーンに登場するのもこのC62だった。この博物館でこれが展示されていると知ったときは、是非とも間近で見たいと思っていた。入り口を入ってすぐのところに、それはあった。国内最大の蒸気機関車で、最高速度は時速129kmだったそうだ。

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 僕は大学のときに機械工学を専攻した。入学した最初の頃の講義で、「機械とは何か」という、根本的な概念を教わった。17世紀のドイツの学者、フランツ・ルーローという人の定義だった。

1) 抵抗力のある部材の組み合わせから成り、
2) その各部は限定された相対運動を行い、
3) これによって自然のエネルギーを我々の欲する仕事に変ずるもの

 いかめしい言葉であるが、ひぐらし式に易しい言葉に直せば・・・

「頑丈な材料で作られていて、ガチャガチャと動いて仕事をするもの」

・・・となる。(もちろんこれは、あくまでも17世紀の定義)

 SLってのは、実に機械らしい機械だ。重々しい鉄で出来ていて、石炭を燃やして発生した熱で湯を沸かし、蒸気の圧力を往復運動に変えて、それをリンク機構で車輪の回転運動に変える。それで人間や貨物を遠方に運ぶ仕事をする。しかもそのメカニズムが剥き出しで、そのままの形で外から見ることができる、まさに典型的な機械である。

 しかし皮肉なことに、機械が進化していくと、機械らしさが消えていく。C62のすぐ隣に、リニアモーターカーが展示されている。実験では最高速度は時速581kmをマークしたそうだ。

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 ここで僕の言う「機械らしさ」というのは「ガチャガチャと動く」つまり、フランツ・ルーローの定義でいう「2) その各部は限定された相対運動を行い、」という部分である。現在、主流になっている電車は、往復運動が無くなっているが、まだ車輪の回転運動が残っている。しかし、鉄道の進化の最高到達点と言っていいであろう、リニアモーターカーではこの点が完全に消滅してしまっており、可動部は全くない。

 これに似た例は、世の中にいくらでも見ることができる。

 例えば時計。そもそも時計の存在目的は、時刻を表示することであって、仕事をすることではない。だから厳密には機械とは言えず、「機器」というのが正しい。しかし、メカニズムに着目するなら、時計の針を回転させる仕事をしているから、その意味では機械と言って差し支えないだろう。昔から歯車を回転させる機構を作るには最高の精密加工技術が要求されてきた。しかし液晶表示パネルや水晶振動子の発明によって、精密機械を作ることなく、時刻の表示ができるようになってしまった。

 他にもある。例えば、駅の自動改札。昔は改札の仕事は、乗客の渡す切符に駅員さんがちょきちょきとハサミを入れていた。当時、僕は生意気にも、「こんな仕事は人間がやる仕事ではない。さっさと自動化できないものか」と、ずっと考えていた。やがて時代が変わって自動改札機というのが出来て、切符や定期券を機械の中に挿入して、磁気の記録を読み取る方式に変わった。さらにICチップを埋め込んだカードを非接触で読み取る装置が導入され、切符を挿入する方式は、とっくに主流の座を降りている。

 機械の機械らしい点である「ガチャガチャ動く」が、進化するにつれてどんどん無くなっていく。その最大の理由は、それが故障の原因になるからである。上記の、自動改札機の例で言うなら、挿入式の自動改札機が、異物を噛み込んだか何かで故障し、開いて修理している光景は、日常よく見ることができる。非接触のカードリーダーなら可動部がないから、こんな故障はなくなる。

 「機械がどんどん進化していくと、機械らしさが失われていく」という事実は、機械のエンジニアとして大いなるジレンマを感じるところである。

 リニアモーターカーの時速500kmの世界を体験できるコーナーがあった。小さなシアター形式になっていて、決められた人数ずつ中に入る。中はリニアの客席になっていて、前の方には、電車の進行方向に見える景色が映し出される。客席の横にある窓のディスプレイには、窓から見える景色が映しだされる。床からは振動が伝わってくるカラクリがある。スタートすると、最初はかすかに床から振動が伝わってくるが、スピードがある値を超えると、磁気浮上が働いて、振動が完全に消える。モニターは、正面も窓も凄いスピードで景色が変わっていく。こうなるともう、飛行機が離陸したようなものである。

 昔の童謡の「汽車ぽっぽ」を思い出してしまった。

   汽車 汽車 ポッポ ポッポ
   シュッポ シュッポ シュッポッポ
   僕等を乗せて
   シュッポ シュッポ シュッポッポ
   スピード スピード 窓の外
   畑も飛ぶ飛ぶ 家も飛ぶ
   走れ 走れ 走れ
   鉄橋だ 鉄橋だ 楽しいな


 畑も飛ぶ飛ぶ、家も飛ぶ? SLの時代に、景色が飛ぶように見えていた人に、リニアの500km/hの世界を見せてあげたい。


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