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怪しいテーブルマナー [雑文]

 スランプ中に、書こうかな~~、とずっと思っていたこと。(そういうものが頭の中にあっても、書けないものはあくまでも書けないから不思議) 料理をするようになってから、特に強く意識するようになった話である。

 とりあえず、写真1を見ていただきたい。西洋のテーブルマナーを小学校で習ったとき、ご飯はこんな食べ方をするのだと教わった。左手で持ったフォークの背中(円弧の外側)にご飯を乗せて食べるのだという。このやり方を聞けば、誰でも「え~~~?」と驚くと思う。でも、とにかくそういうものだから、そのように練習するしかない、と教えられた。

<写真1>
01.jpg

 僕の印象としては、どう考えてもこのやり方は不合理で、わざとやりにくいやり方で食べているように見えたし、別にそんなおかしなやり方を真似する必要もないと思っていた。大人になって、いい年をした今でも、このやり方で食べることはない。じゃあ、どうやって食べるかというと、フォークを右手で持って、写真2のように食べる。別にこれが正しいと声高に主張するつもりもないが、写真1のやり方に反発を感じているのは確かである。

<写真2>
02.jpg

***
 就職して1年目くらいのとき、縁あってフランス料理のコース料理を食べる機会に恵まれた。その店は、料理人もフランス人、ボーイさんもフランス人で、家庭的な小さな店だった。高級レストランではない。テーブルだって、椅子だって高級なものではない。店には華美な飾りが何一つない。ボーイさんだってスーツを着ているわけではなく、若いフランス人の兄ちゃんが適当な服を着ているだけである。この店の雰囲気は、フランスの日常の姿なんだと直感的に思った。そして料理は大変美味しかった。

 その店ではパンが食べ放題だった。どんなパンかというと、いわゆるロールパンのような掌に乗るようなサイズのもの。これをちぎってバターをつけて食べるのだという。このときはっきり意識した。この人たち(フランス人)は、日常生活ではパンを食べる人たちであって、米を食べないのだということを。つまり彼らは稲ではなく麦を栽培し、それを粉に轢いてパンを焼いて食べる民族なのである。

 その後、友人の結婚披露宴に呼ばれて西洋のコース料理を食べる機会は何度もあったが、その中に「ライス」が出てきたことは一度もない。では小学校のときに習った、あの写真1の食べ方は一体どこから来たんだろう。米を食べない民族が、米の食べ方を決めるなどということが有り得るのか。こんなトンチンカンなことがあろうか。我々日本人は、有り得ないことをやってるんじゃなかろうか、という疑問をなんとなく抱きつつも、まあこのようなことにはさほど興味もなく、時間が過ぎた。

 数年前、欧州(数カ国)に出張する機会があった。レストランに入れば、他の客が食事をしている姿が当然のごとく目に入るが、そのときに印象に残ったのは、彼らのナイフとフォークの扱いの巧みさだった。当然だろう。我々日本人は物心つく頃から箸を使って食事する。それと同じことを欧州の人たちはナイフとフォークでやっているのである。そして彼らに日本のご飯を食べさせてみたらどんな食べ方をするのだろうと思ったときに、写真1の食べ方をしても不思議ではないと思った。あれだけ熟練した人なら、苦も無くやってのけそうな気がした。(フォークは左手で持ち、しかも背が上になっているのがニュートラルポジションである。ならば扱い慣れた人ならご飯を背に乗せてしまうだろう)

 この時点で全部わかった。日本に西洋の料理が入ってきたのは、おそらく明治維新の後と思われる。当然日本人はテーブルマナーを西洋人から教わることになるが、そのときに、ご飯の食べ方を聞いたのだ。そしたら西洋人は、あの器用さをもって写真1の食べ方をしたのである。だから日本人は「そういうものか」と思い込み、これが小学校で教育されるところまで広まったのだと思われる。それはまあ仕方ない。おそらく明治時代の日本にはパンを焼く職人はそう多くはなかっただろう。だから穀物を食べようとすれば米だったはずである。だから日本在住の西洋人も米を食べたのだろう。西洋人がそうやって食べるなら日本人もそうやるしかない。近代化の名の下に鹿鳴館で西洋のダンスパーティの真似事をやっていた日本人は、テーブルマナーもまるごと真似したに違いない。

 話を戻して、あの1970年代の小学校の先生方が、「ナイフとフォークで食事をする人々には米を食べる文化がない」ということを知っていたかどうかと考えるに、おそらく知らなかったのではないかと僕は思う。現場の先生方も、教頭も、校長も、その上の教育委員会の先生方も。ほとんどが知らなかったのではないか。そして、それがすなわち当時の日本人全体の西洋に対する認識だったと思うのだ。つまり「西洋人は日本人と同じ米を食べる。しかも、茶碗ではなく皿に盛り、箸ではなくナイフとフォークを使って器用に食べる」と何の疑問も持たずに信じ込んでいたのではないかと思う。

***
 ネットでテーブルマナーを調べてみたら、最近では写真2のような食べ方も容認されているようだ。つまり、無理に写真1のような食べ方をして不器用にこぼすようなことがあったらマナーを云々する以前の問題だということらしい。だけどまだ不合理だ。

【解決策1】
 ご飯はスプーンで掬って食べるように日本人の間で決めてしまえばいい。そんな食べ方を覚えてしまったら西洋に行ったときに恥をかく? 大丈夫。西洋のレストランではご飯は出てこない。

【解決策2】
 どうしてもご飯が食べたいなら、おにぎりにする。そうすればパンと同じように手で食べることができる。おにぎりのところだけ和風になっておかしい? いや、ご飯を食べるなら、それだけで十分に和風である。皿に盛って「ライス」と呼んだところで、正体はご飯である。

【解決策3】
 ナイフとフォークを使って食事をするときは、「ご飯を食べない」と割り切る。つまりパンを食べる。そもそもそれが本来の西洋料理の姿である。

***
 実際のところ、ステーキを注文したときに、料理人がトンカツみたいに短冊状に切って出してくれれば、箸で食べることだって可能になる。そのとき、ご飯は茶碗に盛ればいい。ここまで行けばステーキもトンカツのように完全に日本化し、日本の「日常」に溶け込むだろう。また、ステーキと一緒にご飯を注文したら、その時点で、西洋料理の基本構成は崩れる。そのような崩れた食べ方をするなら、崩れついでに全部を箸で食べた方が潔くて好感が持てる。もはやトンカツと同じなのだから。
 しかし西洋料理に「非日常」を求めるならば、ナイフとフォークにこだわるのも良いと思う。そして、そのこだわりをもつ以上はパンを食べるべきだろう。

(僕自身はどうするか? 僕は今後、一貫して上記の【解決策3】で行こうと思ってます。これが一番、理に叶っていて納得できるから。ついでに一つ提案。ナイフとフォークを使うのが苦手な人は、これらを持つ手の左右を入れ替えてみることをお勧めします。僕は右手にフォーク、左手にナイフをもつことで非常に楽になりました)
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Mad Scientist N添

肉類を食べる際は、初めにナイフで切ってしまったら、後はナイフの登場の機会はないよね?
そうなったら、後は右手(だけ)にフォークを持って食べるのは有り。
ナイフフォークを苦労して使うなら、先に切ってしまえば良いよ!

ちなみに、タイ等の東南アジアでは、左手にフォーク、右手にナイフ・・・ではなく、スプーン!これはなかなか合理的だよ^^b
by Mad Scientist N添 (2012-06-08 22:21) 

ひぐらし

N添さん、こんにちは。「伝統を守る」ということと、「合理性を追求する」ということは、いわば両極端のような話で、今回の記事は、前者寄りの立場に立って書いています。つまり僕は西洋の伝統は伝統として守るべきだと考えています。
 合理化を考えると、N添さんのおっしゃる、先に切ってしまうという方法は「とんかつ方式」に非常に近いやり方だと思いますが、西洋の伝統を重視する御仁の目に留まると、非常に不快に映るようで「みっともない」と注意されたことがあります。(理由不明。伝統だからでしょう(笑)) 

 箸を西洋人に出したとき、右に1本、左に1本もって使っていたら、日本人として黙っていられない。つまり、ナイフとフォークがそこに存在する以上は、どうしても西洋のマナーを引きずってしまうということでしょう。

 日本的な合理化をするなら、徹底的にやるべきで、切るのは料理人にまかせ、食べる側は箸だけ、というとんかつの境地までいくべきだと思います。ここまでくれば西洋のマナーと衝突することもないでしょう。
(ちなみに、イタリアの中華料理屋では、イタリア人は、ナイフとフォークで食べてました。日本人である我々にもナイフとフォークを出してきました(笑))

by ひぐらし (2012-06-09 09:08) 

るるぶぅ

スランプ脱出おめでとうございます!!私もご飯をフォークの背で食べる方法を習いました!ほんと、なぜでしょうね?でも、たしかに最近はフォーマルな食事を食べる機会があっても、あまりご飯をセットにすることはなく、パンなので、フォークの背にのせる機会がありませんが、今でもご飯が出てきたら、フォークの背にのせてしまう気がします。ちなみに、ネパールでは手で食べますので、左利きの私は不浄の左手で食べなければいけません。ネパール人の左利きの人はどうしているのか知りたいです。(笑)
by るるぶぅ (2012-06-09 20:43) 

ひぐらし

るるぶぅさん。こんにちは。ナイフとフォークと使う食事で、「ライス」という選択肢があるなら、それはもはやフォーマルな店ではないと思います。ファミレスとか大衆食堂ではないでしょうか。そういう店なら、極端な話、細かいマナーなど気にする必要はないと思います。これは、別にファミレスや大衆食堂を馬鹿にしているのではありません。でも「ライス」を出すとはそういう意味だと解釈した方がすっきりします。

 あと、ヒンズー教の話。僕は右利きですが、携帯のメールは左手でないと打てません。携帯を最初に持ったときからそういう習慣でした。右利き左利きというのは、その人が「主に」どちらを使う傾向があるかを言っているのであって、右利きだからと言って、すべてのことを右手でできるわけではありません。
 結局、食事をどちらの手でするか、というのは子供の頃からの習慣で決まるのではないでしょうか。ヒンズー教の人は左利きであっても右手で食べると考えるのが自然だと思います。そうしないと社会が許さないなら、親が子供をそのように躾けるでしょうから。
by ひぐらし (2012-06-09 21:54) 

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