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天体望遠鏡の設計の話 [天文]

 以前の記事にも書いたが、僕が天文ファンだった中学生時代(36年ほど前)、アマチュア天文家が天体望遠鏡を自作することは珍しいことではなく、むしろ普通のことだった。月刊誌の「天文ガイド」には、自作用のパーツメーカーの広告がたくさん出ていたし、自分の自作機を自慢するコーナーや、天体望遠鏡自作相談室という質問解説コーナー(注1)もあった。最近の天文ガイドを見たかぎりこのような記事は無くなっているようだ。

 当時、僕も自作を考えていた。市販の高価な望遠鏡はとても買えないが、自作であればなんとかなるような気がしたのだ。しかし現実は甘くはなかった。完成品であろうが、自作であろうが、大なり小なりお金がかかる。やはり中学生には無理だった。

 それからずいぶん月日が流れたが、今年の正月に昔の天体望遠鏡をレストアしたのをきっかけに眠っていた情熱にふたたび火がついた。やっぱり天体望遠鏡を作ってみたい。ちょっと真面目に取り組んでみようと思った。それも、いかにもアマチュアが作るようなものではなく、まるでメーカーが作ったような「えっ。これ自分で作ったの?」と驚かれるような本格的なやつを作ってみたい。

 まずはコンセプト作りである。「そもそも自分は何を観たいのか」というところからつらつら考えてみるに、やっぱり星雲・星団である。つまり中学生時代に手も足も出なかったものを観たり、写真を撮ったりしたいのである。ということは、対物レンズはφ8cmくらい、焦点距離は50cm位の短焦点の屈折式がいい。それから写真を撮るなら赤道儀式架台がどうしても必要だ。

 ただ、鏡筒はとりあえず6㎝の屈折を持っているので、こっちは後回しでいい。・・・というわけで赤道儀式架台の設計から取り掛かることにした。今年の2月の建国記念日の3連休あたりからA3の方眼紙にせっせと線を引いて、だいたい形が決まってきたが、2か月たったところで、行き詰まってしまった。どうしても設計できないところがあるのである。

 自分は大学で機械工学を専攻し、就職して以来ずっと機械設計のエンジニアとしてそれなりの経験を積んでいる。「こういう設計をするとどういうことがおこるか」ということは、経験をつめばある程度は予測できる。例えば、回転軸があって、それをギアの組み合わせで回転させるとか、梁の強度を計算あるいは直観で予測するとか、どこにどんな材料(鋼材、ジュラルミン、プラスチック・・・)を使うとか、ある場所のねじのサイズをいくつにするとか、なんてことはず~~と仕事でやってきた。

 だからそれなりに設計はできるだろうと思っていたが、実際に図面を描いてみた結果、天体望遠鏡の設計においては、自分に全く経験が無くて設計できない、あるいは結果が予測できない分野が2つあることに気付いてしまった。

 まず1つ目が光学系である。単純な望遠鏡ではない。具体的に言うなら赤道儀式架台の極軸合わせに使う望遠鏡の中に、北極星と天の北極の位置関係が簡単にわかる照準器を付けたいのだ。赤道儀の主軸(極軸)は天の北極に向けなければならないが、天の北極のドンピシャの位置には目印になるような星がない。しかし偶然にも、そのすぐ近く、わずか1度しか離れていないところに北極星(2等星)がある。だから極軸の中心に望遠鏡を付けて、その視野に北極星を入れ、そこになんらかの目印をつけてそれを手掛かりにして天の北極を中心にもってくることができるようにしたいのである。こういうのは、いわゆる「極軸ファインダー」と言うもので、昔から市販の高級機にはついている。しかしどう設計したらよいやらわからない。光学系を勉強したことが全くないのである。

 2つ目はモーター。天体写真を撮影する場合、暗い天体を狙う場合は露出を長くとる必要がある。その場合、カメラを固定していると、被写体が日周運動のために流れてしまう。もちろんわざと流れた写真を撮る場合もあるが、それしか撮れないのでは困る。だから赤道儀式架台にカメラを載せて、これを恒星時に合わせて回転させ、長時間露出でも星が流れないようにする。そのためのモータードライブを作りたい。しかもとびきり消費電力の低いのを作りたいのだ。しかしコイルにどのくらいの電流を流したときにどのくらいの磁力が発生するかというのがまるで見当がつかない。僕はいままでの仕事で磁気を応用した機器を設計したことが一度もないのである。(注3)

 というわけで勉強しなければ夢が叶わないことがわかってしまった。それでひとまず光学系の本を買ってみた。「天文アマチュアのための屈折望遠鏡光学入門」というもの。下の写真である。表紙をよく見ると、レンズ系の組み合わせと光路の絵が描いてあるのが見えると思う。こういう系のどの位置にどんなサイズの照準器をつけたら、星と一緒に自分の目にピントが合い、なおかつ北極星と天の北極の位置関係を明確にできるのか、を知りたいのである。

01.jpg

 この本、難しすぎて、読み始めるとすぐに眠くなる。こういう本に出会ったのは久しぶりである。もっと簡単な本がないものかと思って探してみたが、この分野はどうもこれ以外に手頃なものが見つからない。(注2)まずはこれを根性出して通読してみようと思っている。果たして理解して読み通せるのかどうか定かではないが、チャレンジすることはいいことだ。このたびは決意表明まで(笑)

***
(注1)「僕が天文少年だった頃(5)」(下記URL)を参照。
http://shonankit.blog.so-net.ne.jp/2013-02-02-1

(注2)望遠鏡の「使い方」を解説している本はたくさんあるが、光学系の解説となると素人向けの入門書はあまりない。専門書っぽいものはあるが結構高くて、この本よりずっと難しそうに見える。本が少ないというのは、要するに光学系を設計してみようというアマチュアがあまりいないということなのだろう。まあ普通の望遠鏡であれば対物レンズと接眼レンズをまっすぐに並べればよく、距離も現物合わせでなんとかなりそうだ。つまり、さほど深く学ぶ必要はないということで、アマチュア向けの解説書が少ないのかも知れない。

(注3)子供の頃、釘にエナメル線をぐるぐる巻いて電磁石を作ったことがあったっけ。クリップか何かをくっつけて喜んでいたけど、あのときは、電池に直接つないでいたから、電流は垂れ流しで、流れたい放題流れていたはず。
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るるぶぅ

最近、他の方のブログをみる機会があり、ついひぐらしさんのブログと比べてしまったのですが、ひぐらしさんのブログはとても質が高いことがわかりました。天文系(天体かな?)は難しすぎて、コメントできないのですが、一つのテーマに絞って、深く掘り下げています。他の方のブログは日記的要素が強く、焦点が絞られていない。コメントしようがないのです。なので、すばらしいブログなので、頑張って続けてくださいね!
by るるぶぅ (2013-05-06 21:54) 

ひぐらし

るるぶぅさん、こんにちは。それはたぶん褒め過ぎです(笑)まあブログの書き方にもそれぞれの人の流儀というものがあって、毎日欠かさず更新しようとすれば、そうそう連日深い内容は書けないし、深く掘り下げようと思えば僕みたいに1か月に1回くらいの更新になってしまいます。そもそもブログは日記であってそんなに深い内容を書くものではないという人もいます。こちらの方が多数派で一般的なような気がします。
 では僕自身はどう考えているかというと、初期の頃は、かなりラフな内容を書いていたと思います。でもだんだん考えが変わり、ひとつひとつの記事は作品だと思うようになりました。だから、よく考えて文章を念入りに校正して、製本したときに普通の本として読めるような内容を書こうと思っています。だからそういう印象を受けるのではないかと思いますがいかがでしょうか(笑)

by ひぐらし (2013-05-08 20:20) 

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