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かるびい [自炊研究]

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 小学生の低学年の頃だったと思う。作文で好きな食べ物について書けと言われ、僕は「かるびい」が好きだと書いた。「かるびい」とは一体何かというと、うちのお袋が焼肉をそう呼んでいたのである。たぶん「カルビ」と言っているつもりだったのだろうが、発音に癖があって、後ろの方が伸びて「かるびい」となったようだ。

 カルビというのは朝鮮語で牛のバラ肉(肋骨のあたり)のことを指した言葉である。つまり料理の名前ではなく、ロースとかフィレとかと同じように、食肉の部位を表す。でも、僕がそのことを知ったのは、大人になって、自分の金で焼肉を食べに行くようになってからだった。

 お袋が「カルビ」の本当の意味を当時知っていたのか、あるいは今知っているのかどうかはわからない。でもまあそれはいい。少なくとも当時お袋は、焼肉のことを「かるびい」と呼び、僕も影響されて、焼肉のことを「かるびい」と呼び、それが好物であると作文に書いたのである。

 通常、我々が焼肉をやるとき、少なくとも牛肉を焼くときは、焼きすぎないように注意する。西洋のステーキも同様である。つまり牛肉の旨みが出るのは、生焼けくらいのときなのだ。しかし、お袋は食中毒を避けるため、生肉を子供に食べさせるようなことはなかった。これは子育て中の母親の考え方としては正しいと思う。実際、ごく最近でもレバ刺しの食中毒が起きているくらいなのだから。

 ただ、お袋の焼き方は、用心深すぎて、焦げるほど焼いてしまう。旨いか不味いかは別としても、一般の人が認識している普通の焼肉の味とは違ったものになる。肉は焼きすぎて固くなり、焦げのせいで苦味が混じる。これがお袋の味の「かるびい」、すなわち一般人の視点で見ると「焼きすぎて失敗した焼肉」である。

 大人になって、自分で焼肉屋に行けるようになって以来、お袋の「かるびい」を、ずっと焼きすぎだと馬鹿にしていたような気がする。しかし、どういうわけか、ドイツから帰ってから、「かるびい」を食べたくなってしまった。スーパーで牛肉と焼肉のタレを買ってきて、フライパンでタレを絡めながら軽く焦げるまで焼いた。できたのが文頭の写真。この黒さは肉の焦げの他にタレの焦げ付きも含まれている。

 改めて食べてみると悪くない。というより結構美味しい。小学生の頃に好物だっただけのことはある。外食では絶対に食べられない、お袋の味。失敗と言われることを敢えてやるのは変かもしれないが、旨いのであれば、もはや失敗ではない。一つのレシピとして認められるではないか。(笑)
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