夏休み特別企画 東京湾一周徒歩の旅（3）

　東横インは、基本的に素泊まりのビジネスホテルであるが、朝食の無料サービスがある。朝7時からフロントの前のホールで、焼きたてのパンが数種類、オレンジジュースとコーヒー、ポテトサラダのバイキングが食べられるのだ。質素ではあるが美味しい。いいホテルだ。

　起きたときは、もう雨が降っていた。本来なら、朝食前に出発する予定だったが、雨と足の痛みにめげてしまったので、二日目の朝はのんびりとサービスの朝食を食べ、8：40に出発。一晩休んで、足の痛みは、そこそこ引いた。さて北へ。雨の量は、普通だったが、台風が連れてきた雨らしく、時折、強くなったり弱くなったりしていた。

■桜田門
　芝の東京タワーを右に見て、さらに北に進んでいくと、霞ヶ関の官庁街。そこを過ぎて、皇居の桜田門にぶつかったのが、10：20だった。



　去年のNHKの大河ドラマ「篤姫」の「桜田門外の変」のシーンを思い出した。大老になった井伊直弼と天璋院は意見が折り合わなかった。ことごとく対立する状況を打開するため、天璋院は、井伊直弼と二人だけの面会を申し込む。井伊直弼は、茶の湯を極めた人で、茶室で天璋院に茶を振舞った。このとき天璋院は、ジョン万次郎が持参した西洋土産のミシンでフクサを縫って、井伊直弼にプレゼントした。
　桜田門外で井伊が暗殺されたとき、現場には、雪の上に天璋院が贈ったフクサが落ちていた。演出だとは思うが、とても切ないシーンだった。

■靖国神社
　桜田門は、皇居の南側にある。ここから皇居の西側のお堀にそって歩き、九段の靖国神社に到着したのは11：00。雨はこの頃がピークだった。拝殿に二礼二拍手一礼。「熱帯のジャングルの中を行軍した兵隊さんたち、安らかにお眠り下さい。あなたがたのご苦労を少しでも理解するために、今年はこんなことをしています」　参拝のあと御守りを買い、お茶屋さんでカキ氷を食べた。今回は時間の都合で遊就館の見学は無し。



■深川
　靖国通りを東へ。13:10に両国橋に到着。隅田川を渡り、両国から隅田川を南下する。このころ雨が上がった。
　江戸川区の深川というところは松尾芭蕉がかつて暮らした土地らしい。「芭蕉俳句の散歩道」というところがあって、建物の一角で旅装束の松尾芭蕉の銅像が休憩している。


　雨が上がった頃から、右足の小指が擦れ始め、チクチクと刺すような痛みを感じ始めた。普段の山登りのときは、5本指の靴下を履いているが、今日は、油断して普通の靴下を履いた。これがいけなかったと思う。仕方がないので、5本指の最後の一足を履くことにした。この痛みの原因はマメだった。右足の小指の先端全体がマメになっていた。珍しいし面白いので写真をとっておいたが、グロテスクなので、ナマの公表は避ける。


■夢の島
　門前仲町、木場、東陽町と、東西線（東京メトロ）の駅を3つ過ぎ、夢の島へ向かう。この辺にも思い出がある。大学生の頃、バイクに乗っていたとき、この界隈に、迷い込んだことがあった。もともとが方向音痴で、しかもロードマップをもっていなかったので、あちこち彷徨った。このときに、ごみの臭いがひどかったのをよく覚えている。後で気づいた。「そうだ、あの辺には夢の島があったんだ」

　夢の島といえば、かつてはゴミの埋立地として有名で、当時、消費生活で排出されるゴミの量が、処理能力をはるかに超えてしまい、処分場の夢の島がゴミの島になってしまった。このことが社会問題になった。昭和46年放送の「帰ってきたウルトラマン」でも、夢の島出身の”ゴキネズラ”という、すごい不潔な名前の怪獣が出たりなんかしていた。

　夢の島公園についたのは16：30。今は、綺麗な公園になって、陸上競技場や野球場ができている。ゴミの臭いはすっかりなくなってしまっている。またビキニ環礁の水爆実験で被曝した第五福竜丸が展示されている。こちらは残念ながら休館日だった。

夢の島公園の案内図



第5福竜丸


■荒川河口橋
　夢の島を出て東へ。荒川河口橋を渡る。この橋の上空は、旅客機の通り道になっていて、渡っている間に飛行機が5機くらい飛んでいった。これがみんな同じ北東の方から左旋回しながら近づいてきて、荒川の下流の海の方に飛んでいく。どうやら成田空港を離陸した飛行機が、海に出るルートみたいだ。離陸したばかりなので、高度が低く、フラップや車輪が下がっている様子がよく見えた。飛行機の車輪は、随分と長い間出しっぱなしにしておくのだなと思った。やはり安定飛行に移るまでは、万一の対応を考えて、こうしておくのだろう。


■葛西～浦安
　すでに足の痛みは限界に近づいていたので、今日の目標を決めた。最低でも千葉県に入ろう。そこから電車に乗ってホテルまで行こう。葛西臨海公園を過ぎたのが18：00。舞浜大橋を渡って、千葉県浦安市に入ったのが、18:30だった。

葛西臨海公園の観覧車


ディズニーランドの建物


■ワープ！！
　足を引きずりながら、「舞浜」駅の改札に入った。京葉線に揺られること30分、「千葉みなと」駅に着いたのは、19:30だった。
　電車の中で、一つ席が空いたので座ったら、隣の女の人が鼻をくんくんさせている。汗臭いのは自分でも気づいていた。そのうち車内がすいてきた。そしたら、その女の人、遠くの席に移動してしまった。追いかけて行って、また隣に座り、「どうせ俺はくせえよ、ほらほら、くせえだろ」と言ってやりたかったが、足が痛くて、そんなガッツは残っていなかった。第一、変態だと思われたら困る。想像に留めておこう。

　ホテルにチェックインしたときは、立っているのがやっとだった。生まれたばかりの子鹿のような、ちょっと躓いたら簡単に転んでしまうような、フラフラな状態だった。
（つづく）