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ひぐらしの中学生日記(4) [雑文]

【エピソード4】 「白地に青の水玉」事件

 中3の年の暮れ、H野が「クリスマスパーティをやろう、男ばかりじゃつまらないから女の子も呼ぼう」と言い出した。昔も今も、クリスマスイブは学校の終業式である。H野が同じクラスの女の子を3人誘った。終業式を終えて開放的な気分のまま、みんなでH野の家に集まった。女の子たちは中3ともなれば、さすがに気がきくようで、リッツクラッカーの上にいろんなものをトッピングしたスナックを用意して来てくれた。

 大人になってパーティをやれば必ず酒を飲むが、そこは中学生がやるパーティだ。当然ながら酒を飲もうという奴は一人もいなかった。しかしそれでも大いに盛り上がった。このときの楽しさが尾を引き、同じメンバーでその後、しばらく遊ぶことになった。どういう名目で集まっていたのか思い出せないが、おおかた「みんなで勉強する」なんて言っていたのだろう。でも、みんなで集まって勉強なんかやるわけがない。ワイワイガヤガヤ騒いで時間が過ぎるだけである。

 さて、このメンバーの中にTF子という女の子がいた。体が小さくて童顔で、いつもニコニコしていて、一言で言うなら「おもちゃ」みたいな可愛い子だった。たしかクリスマスパーティから年が明けた翌年の1月、まだ冬休み中だったと思う。僕の家にみんなで集まって遊んでいたとき、TF子が立ち上がって、台所かトイレか、とにかくどこかに行こうとした。そのとき僕がたまたま寝転がっていて、彼女が絶好のポジションに来たので、頭を動かしたらスカートの中がバッチリ覗けてしまい、白地に青い水玉模様のパンツが見えてしまった。彼女はそのとき、すごく怒ったと思うが、回りの連中が大爆笑したため、雰囲気に飲まれて怒るに怒れなかったようだ。

 しかしその後で、「俺は何という事をしてしまったんだ」と恥ずかしくなった。今考えるなら、こんな遊びが「つい出来心で・・」と済ませられるのは、せいぜい中学生がギリギリ、しかも気心の知れた遊び仲間だから許される(いや許されないか)。高校生以降でこれをやったら [ 変態 ] の烙印を押されることは確実である。

 やがて受験シーズンが始まり、クリスマスパーティの余韻に浸っている時間はなくなってしまった。そして受験も終わり、卒業という運びになる。

 さて、時間はここから一気に3年ほど経過する。高校を卒業した年の夏に、同窓会があって、そのときTF子が船橋の○武デパートに就職して玩具売り場で働いている、という話を聞いた。彼女を玩具売り場に配属した人事担当者のセンスには大いに評価できる。あの童顔は、婦人服売り場でも、化粧品売り場でもない。どう見ても玩具売り場である。

 このとき僕は最初の大学受験に失敗し、東京の予備校に通っていた。通学路が船橋を経由していたので、ある日、ちょっと、そのデパートの玩具売り場に行ってみた。そしたら確かにTF子が、おもちゃのような顔でレジのところに立ってニコニコしていた。本当はダベッて無駄話でもしたかったのだが、向こうは仕事中だし上司の目もある。プラモデルを一つ買って、早々に退散した。

 その後、僕は東京の大学に入ったが、その4年間で、そのデパートの玩具売り場に数回は行ったような気がする。そのたびに彼女はそこにいた。このデパートは配置転換をしないのか、それとも顔があまりにも玩具売り場に似合っていて動かせないのか。理由はともかくとして、ぶらっと遊びに行って、相手がそこに居てくれれば張り合いもあるというものだ。

*     *     *

 今、手元に一つのプラモデルがある。ハセガワの1/48紫電改。当時、船橋の○武デパートで買ったものである。このプラモは結局作らないままストックになって眠っていた。このブログを始めて間もない頃、千葉の実家から今の家に、たくさんあったストックを運んだことがあった。そのときこれを見つけ、値札の、○武デパートのロゴマークを見たとき、あのときレジでニコニコ笑っていたTF子を思い出した。そして連鎖的に、あの冬休みに見た「白地に青の水玉模様」を思い出してしまった。

 つい先日の同窓会で、久しぶりにTF子に会ったので、このプラモの話をして「それを見るといつもお前のことを思い出すんだよ」と話してみた。すると彼女は、「そうやって思い出してくれるなんて嬉しいね」と言ってくれた。だからついでに、「俺がお前のスカートの中を覗いたの覚えてるか」と聞いてみた。そしたら、「え~~~?! 覚えてない!」とびっくりしていた。回りにいた連中が「どうやって覗いたんだ」と聞くので、こうやってこうやって、と説明したが、熱演も虚しく、彼女の記憶が蘇ることはなかった。覚えてたら謝ろうかと思っていたが、謝る気が失せた。言わなきゃよかった。

 ただ、その代わり彼女が、僕の覚えていないことを話してくれた。僕が今の会社に就職したばかりで、まだ独身寮に入る前の頃、藤沢にある事業所に千葉の実家から始発の電車で通っていたことがあった。その頃ちょうど彼女は、横須賀の人と結婚が決まって、その準備のために始発に近い電車で横須賀に通っていた時期だった。そのときに僕と毎朝のように会ったという。言われてみると一度くらいは会ったような気がするが、そんなにたくさん会ったかな。残念ながら、僕の記憶には残っていなかった。おそらく生活に変化が起こっているときで、どんどん新しいことに記憶が上書きされてしまったと思われる。

 ともあれ、こうして振り返ると、TF子とは意外に交流があったんだなと思う。男女の違いはあっても、やっぱり同級生っていいもんだなとも思う。なにしろスカートの中を覗くなどというお下劣な行為をしても、それで僕を見る目が変わることもなく、それどころか、そのことをすっかり忘れているのだから。こういうのは、大人の感覚で判断するなら痴漢行為であって、しかも「加害者の方が忘れても被害者の方は忘れない」という類のものではなかろうか。つまり当時の彼女には被害者という意識がなかったということになる。恐るべき無邪気さである。でもガキの頃ってそんなもんなのかもしれない。

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