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燕岳・槍ヶ岳(その5) [登山]

7月23日
 最終日は上高地を散策し、重要なことを学習してしまった。ここには北アルプスの登山史を語る上で欠かすことのできない重要な二人の人物の記念碑がある。一人はイギリス人宣教師のウオルター・ウエストン、もう一人は上條嘉門次、どちらも明治時代の人である。

 まず、ウオルター・ウエストン。この人は明治27年に宣教師として来日。日本各地の山を歩いてそれをヨーロッパに紹介した人物として知られている。おそらく彼によって日本に近代的な登山の概念(注1)がもたらされた。
 ちなみに小島烏水(注2)らによって日本山岳会が設立されたのは明治38年。ウエストンが来日してから11年後になる。設立にあたっては交遊のあったウエストンの助言があったといわれている。

 次に上條嘉門次。この人は若い頃は松本藩の藩林の見回り人夫だった。猟で生計を立てる傍ら、山の案内人もした。特にウオルター・ウエストンの山の案内をしたことで有名になったと言う。つまり今風に言えば山岳ガイドである。二人の偉人の記念碑を見ながら明治時代の、日本の登山の黎明期に思いを馳せた。

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 最終日は、皮肉なことにカンカン照りになり、絶好の行楽日和になった。まずは明神池。上高地には穂高神社(注3)の奥宮があり、明神池はこの神社の中にある「神の領域」である。波のほとんど立たない水面は鏡のように美しく周囲の景色を映し出す。季節によって時間によって、さまざまな絵が現れそうな場所だった。なお嘉門次の小屋とレリーフは明神池のすぐ近くにある。
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 梓川の脇を支流のせせらぎを聞きながら下流に歩く。
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 有名な河童橋。
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 さらに進むとウエストンのレリーフ。
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 さらに進んで大正池に行ったら野生の小熊がいてびっくり。
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 姉の体調は最終日には何とか回復したようだ。天気と言い姉の体調と言い、実にタイミングの悪い山行だったが、無駄ではない。眺望だけが登山でもない。これも一つの経験だったと思う。特に大きな収穫は、今まで北アルプスは僕にとって未知の世界だったが今回の経験でそうでは無くなり、身近に感じることが出来たことである。それだけでも価値のある山行だった。14:00発の新宿行きのバスに乗って帰ってきた。

(おわり)

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(注1)近代的な登山の概念(ひぐらしの考え)
 江戸時代以前、日本人が山に登る理由はおそらく下の3つくらいだったのではないか。
1)地理的に山に隔てられた隣村に行くため。(峠越え)
2)生活の糧としての動植物を採るため。
3)山岳信仰の対象として。
 交通手段が、カゴ、馬、徒歩くらいしか無い時代だから、山に登るのは山の近くで生活している人だけだったはず。さらに国民の大多数を占める貧しい農民たちには、わざわざ遠方まで登山に行くだけの生活のゆとりはなかっただろうし、そのような発想そのものがなかったはずである。
 ところがウオルター・ウエストンには上記の3つのような理由がない。「そこに山があるから」「登りたいから」「美しい景色を見たいから」「冒険したいから」といった従来の日本の常識からかけ離れた理由(すなわち我々が現在、山に登る理由)で山に登ったと考えられる。当時の日本人には、最初はこの西洋人のしていることは理解不能であったろう。

(注2)小島烏水
 日本山岳会の初代会長。登山家でありながら文筆家でもあり、本職は銀行勤務のサラリーマン。新田次郎の小説「剣岳・点の記」が映画化されたとき仲村トオルが演じたのがこの人だった。この物語は帝国陸軍の立場から書かれているので、日本山岳会は「遊び半分で山に登っている連中」であり、「帝国陸軍を挑発する生意気な奴ら」として憎まれ役にされてしまっている。もちろん小島烏水が悪人であるはずはない。

(注3)穂高神社
 祭神は穂高見命(ほたかみのみこと)。主宮は長野県安曇野市穂高。奥宮が上高地、嶺宮が奥穂高岳の山頂にある。奥穂高岳(3190m)は北アルプスの主峰で、富士山、北岳に次いで日本で3番目の高峰。


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るるぶぅ

お疲れ様でした!写真をみていると、よく撮れているので、さほど天気の悪さを感じませんが、写真の感度が良いのですね。私は山にカメラを持っていっていませんが、こんな良い写真が撮れるのなら、ちょっと考えたいと思います。
by るるぶぅ (2012-08-06 20:44) 

ひぐらし

るるぶぅさん、こんにちは。僕は写真が大好きなので、よく撮りますし、カメラはチョッキの胸のポケットにしまっておいて、よい景色に出会ったらすぐに撮影できるようにしてあります。
 一方、よく同行する姉は、僕ほど写真を撮りませんが、高山植物が大好きで、これに出会ったときは、よく撮っています。しかしカメラをウエストポーチの中に入れているので出し入れに時間がかかり、写真を撮ると、その分、歩くのが遅れます。
 山に行くとプロの山岳写真家みたいな人に出会うことがあります。そういう人のカメラは当然のように一眼レフ、三脚は数kgくらいありそうなすごいのをリュックに括り付けています。写真が目的で山に登る人は、おそらくリュックの中身も普通の人とはだいぶ違っているように見受けられます。
そういうわけで、写真に対するこだわりの程度というものは人により様々だと思いますが、10年後くらいに自分の足跡を辿るときのことを考えると写真はたくさん有った方が楽しいのではないかと思います。
るるぶぅさんも、やってみたら? 山でいい風景が撮れると結構嬉しいものです。
by ひぐらし (2012-08-07 06:01) 

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