M君の作った立体星図 [天文]
以前、天文少年時代の思い出を書いた。今でも好きではあるが、天体の観望よりもその道具である望遠鏡の方に興味が移っている。少し前に天体望遠鏡の極軸ファインダーの設計に関する話を書いていたのだが、途絶えてしまった。なぜかというと、そこから先は実験をしないと、なかなか書きにくいからである。
そんな事情もあって、今年の2月から望遠鏡の設計を始め、少しずつ部品が揃いつつある。ただ、それを報告出来るレベルまで行っていない。まず部品を設計し、それを加工屋さんに発注する。発注から納品までは通常2週間くらいかかる。これを少しずつ進め、三脚の下の方から少しずつ積み上げて、今、赤道儀が乗る直前のところまで来た。何しろ時間がかかる。でも報告できるレベルまで、あともう少しである。
前置きはこのくらいにして本題に移ろう。会社の後輩のM君の話である。彼とは2009年に一緒に富士山に登った。このときの記録はこのブログにも書いた。山頂の山小屋でゲロを「吐かなかった」方の後輩である。
彼は入社したときの自己紹介で、「ボランティアでプラネタリウムの運営に携わっています」と言った。今まで僕の人生の中で、天文ファンに巡り合ったこと自体が少なかったが、プラネタリウムの運営をやっている人に出会ったのは全く初めてだった。僕の作っている望遠鏡の話を面白がって聞いてくれる数少ない理解者の一人である。
思うに、彼は僕と同じ種類のエンジニアではないかと思う。つまり現象を数式で表現するのが大好きなのである。その一方で、数式なんかにこだわりがなく、大学で習ったことなんか役に立たない、と割り切って実務に励む人もいる。まあ全員が学者では困るわけで、気配りや交通整理の上手な人だって必要。結局どちらのタイプもそれなりに成果を出すわけだから、世の中うまく行ってるっちゃあ行ってるわけだが。(注1) いずれにしてもM君には、単に同じ天文ファンであるというだけではない、何か、心の深いところに共通性というか、僕と同じ”マニアの匂い”を感じるのである。
先日M君から、「最近、立体星図ってのを作ったんですよ」という話を聞いた。彼が活動している「柏プラネタリウム研究会」の催し物の展示物で、恒星を、位置データを元にして立体的にレイアウトし、地球側から見ると星座の形にちゃんと見えるようにしたのだという。まるでハインラインのSF小説「銀河市民」に出てきたGalactic View(立体銀河図)ではないか。見に行ってみようかな、と言うと、「柏インフォメーションセンターのサイトに写真が載ってます。あまり期待されると困りますけど、こういうものでよければ見て下さい」とやけに遠慮がちに言った。
7月18日の土曜日、3連休の初日に出掛けてみることにした。まず秋葉原に行き、ジャンクの掘り出し物探しとモーター制御用のICを購入。それから常磐線にのって柏まで行き、柏インフォメーションセンター(柏市の行政センターらしきところの隣にある)に行ってみた。そしたら、あったあった。M君の力作が。
野球場のような扇形の宇宙空間に、地球から見てさそり座、いて座の方向が見えている。200光年、400光年、600光年の距離に線が引いてあり、これより近い距離にある星が立体的に配置してある。外宇宙から見てランダムに見える星が、地球から見ると、ちゃんとさそり座のS字カーブに並んでいるのが確認できるようになっている。しかもさそりの心臓のところにあるアンタレスが赤いLEDで光っている。(もっとも展示場所が明る過ぎたせいでLEDが光っているのがわかりにくかった。これは残念)
子供たちにわかりやすいように、とM君が頑張って作っているところを想像して笑ってしまった。いや、馬鹿にしているわけではない。僕は、こういう作業に熱中できることが非常に理解できるのである。共感したときの嬉しい笑いである。
次回やるときの改善案。今回の展示場所は明るすぎて、光らせても認識できない。次回やるときは、もう少し暗い場所に置くか、カバーをつけるかして暗くした方がよい。星の絶対等級により、球体の大きさを決めたそうだが、見易さを考えると、あまり大きさを持たせずに小さめにした方がよさそう。また光らせるのは、光ファイバー(釣り用のナイロン糸で代用可能)を使うのはどうだろう。さそり座の星だけを光らせると、目立ってわかりやすいのではないだろうか。
全天恒星図と配置を見比べながら、さそり座だけ距離を調べてみた。(これであってるのかな?) 実際に調べてみたら、それぞれの星の遠近の差が実感できて面白かった。本物の宇宙の正確なスケールと、この模型で実際に見える星座の形状との兼ね合いで、M君がだいぶ苦労した様子が読み取れた。
***
(注1)
現象を数式で表すことができれば、その現象の未来を予測することができる。例えば高いところからものを落としたとき、10秒後(未来)のスピードはいくらになっているかは微分方程式を解けば計算できる。それができなければ、いちいち実測しなければならない。
機械の動作を数式で表すのは、機械工学を学んだ人にとっては専門分野であるが、専門外の人ならば当然ハンデを背負うことになる。実際、大学の専攻と現在の仕事がぴったり一致している人もいれば、していない人もいるのだ。
しかし、大学というところは、専門的なことを学ぶ場でもあるのと同時に、頭の使い方を学ぶ場でもある。これがあるから専門外のことも、何とかこなすことができる。「大学で勉強したことなんか社会に出たら役に立たないよ」なんて言う人がいるが、そんなことはない。頭の使い方をみんなそれなりに、ちゃんと学んでいるのである。
そんな事情もあって、今年の2月から望遠鏡の設計を始め、少しずつ部品が揃いつつある。ただ、それを報告出来るレベルまで行っていない。まず部品を設計し、それを加工屋さんに発注する。発注から納品までは通常2週間くらいかかる。これを少しずつ進め、三脚の下の方から少しずつ積み上げて、今、赤道儀が乗る直前のところまで来た。何しろ時間がかかる。でも報告できるレベルまで、あともう少しである。
前置きはこのくらいにして本題に移ろう。会社の後輩のM君の話である。彼とは2009年に一緒に富士山に登った。このときの記録はこのブログにも書いた。山頂の山小屋でゲロを「吐かなかった」方の後輩である。
彼は入社したときの自己紹介で、「ボランティアでプラネタリウムの運営に携わっています」と言った。今まで僕の人生の中で、天文ファンに巡り合ったこと自体が少なかったが、プラネタリウムの運営をやっている人に出会ったのは全く初めてだった。僕の作っている望遠鏡の話を面白がって聞いてくれる数少ない理解者の一人である。
思うに、彼は僕と同じ種類のエンジニアではないかと思う。つまり現象を数式で表現するのが大好きなのである。その一方で、数式なんかにこだわりがなく、大学で習ったことなんか役に立たない、と割り切って実務に励む人もいる。まあ全員が学者では困るわけで、気配りや交通整理の上手な人だって必要。結局どちらのタイプもそれなりに成果を出すわけだから、世の中うまく行ってるっちゃあ行ってるわけだが。(注1) いずれにしてもM君には、単に同じ天文ファンであるというだけではない、何か、心の深いところに共通性というか、僕と同じ”マニアの匂い”を感じるのである。
先日M君から、「最近、立体星図ってのを作ったんですよ」という話を聞いた。彼が活動している「柏プラネタリウム研究会」の催し物の展示物で、恒星を、位置データを元にして立体的にレイアウトし、地球側から見ると星座の形にちゃんと見えるようにしたのだという。まるでハインラインのSF小説「銀河市民」に出てきたGalactic View(立体銀河図)ではないか。見に行ってみようかな、と言うと、「柏インフォメーションセンターのサイトに写真が載ってます。あまり期待されると困りますけど、こういうものでよければ見て下さい」とやけに遠慮がちに言った。
7月18日の土曜日、3連休の初日に出掛けてみることにした。まず秋葉原に行き、ジャンクの掘り出し物探しとモーター制御用のICを購入。それから常磐線にのって柏まで行き、柏インフォメーションセンター(柏市の行政センターらしきところの隣にある)に行ってみた。そしたら、あったあった。M君の力作が。
野球場のような扇形の宇宙空間に、地球から見てさそり座、いて座の方向が見えている。200光年、400光年、600光年の距離に線が引いてあり、これより近い距離にある星が立体的に配置してある。外宇宙から見てランダムに見える星が、地球から見ると、ちゃんとさそり座のS字カーブに並んでいるのが確認できるようになっている。しかもさそりの心臓のところにあるアンタレスが赤いLEDで光っている。(もっとも展示場所が明る過ぎたせいでLEDが光っているのがわかりにくかった。これは残念)
子供たちにわかりやすいように、とM君が頑張って作っているところを想像して笑ってしまった。いや、馬鹿にしているわけではない。僕は、こういう作業に熱中できることが非常に理解できるのである。共感したときの嬉しい笑いである。
次回やるときの改善案。今回の展示場所は明るすぎて、光らせても認識できない。次回やるときは、もう少し暗い場所に置くか、カバーをつけるかして暗くした方がよい。星の絶対等級により、球体の大きさを決めたそうだが、見易さを考えると、あまり大きさを持たせずに小さめにした方がよさそう。また光らせるのは、光ファイバー(釣り用のナイロン糸で代用可能)を使うのはどうだろう。さそり座の星だけを光らせると、目立ってわかりやすいのではないだろうか。
全天恒星図と配置を見比べながら、さそり座だけ距離を調べてみた。(これであってるのかな?) 実際に調べてみたら、それぞれの星の遠近の差が実感できて面白かった。本物の宇宙の正確なスケールと、この模型で実際に見える星座の形状との兼ね合いで、M君がだいぶ苦労した様子が読み取れた。
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(注1)
現象を数式で表すことができれば、その現象の未来を予測することができる。例えば高いところからものを落としたとき、10秒後(未来)のスピードはいくらになっているかは微分方程式を解けば計算できる。それができなければ、いちいち実測しなければならない。
機械の動作を数式で表すのは、機械工学を学んだ人にとっては専門分野であるが、専門外の人ならば当然ハンデを背負うことになる。実際、大学の専攻と現在の仕事がぴったり一致している人もいれば、していない人もいるのだ。
しかし、大学というところは、専門的なことを学ぶ場でもあるのと同時に、頭の使い方を学ぶ場でもある。これがあるから専門外のことも、何とかこなすことができる。「大学で勉強したことなんか社会に出たら役に立たないよ」なんて言う人がいるが、そんなことはない。頭の使い方をみんなそれなりに、ちゃんと学んでいるのである。
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