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平家物語を読みたい(7)鹿ヶ谷の陰謀 [読書]

(勉強会も半分が終わり、今、前半の振り返りを書いています)

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 平家物語は、清盛の父の忠盛が手柄を立てて、武士としては希な殿上人になるところから始まる。忠盛亡きあとは嫡男の清盛が後を継いだ。清盛は保元の乱、平治の乱のときの功績が認められて中納言、大納言とトントン拍子に出世し、ついに太政大臣に上りつめた。その後は一族郎党が宮中の要職につき、また地方でも全国の半分以上の受領を平家の息のかかった者が占めた。

 そうなると、役職を追われた人からは当然不満がでる。また思い上がって狼藉を働く者が出るようになり、もめ事がおこる。そういうときでも、清盛が結局強権を発動して、平家が勝ってしまう。そんなことが続いて周囲の不満が次第につのっていった。

 京都東山の鹿ヶ谷(ししがたに)という所に俊寛(しゅんかん)という僧都の山荘があった。ここに集まった人たちの間で行われた、平家打倒の謀議は「鹿ヶ谷の陰謀」と呼ばれている。(改めて高校の日本史の教科書を見返したらちゃんと載っていた。僕の頭の中には無かったが)

 この計画は身内の密告ですぐに露見してしまい、実行に移されることはなかった。怒った清盛はすぐに関係者を処罰した。即刻殺された者もいれば、流刑になった者もいる。特に印象深かったのは、鬼界が島(きかいがしま)(注1)に流刑になった、俊寛(しゅんかん)、康順(やすより)、成経(なりつね)の、三人の話だった。

 康順と成経は、熊野権現を信仰していたので島の中に熊野権現を勧請(注2)して帰京を祈り、また千本の卒塔婆に望郷の歌を書いて海に流したという。すると、その卒塔婆の一本が奇跡的に安芸の厳島神社に流れ着いた。

 本当か?と、疑いたくなるようなエピソードである。鹿児島沖から、海流にのって四国の沖に流れることは、もしかしたら有るかも知れないが、そこから狭い豊後水道を通って、瀬戸内海に入り、さらにあの細かい島だらけのところを抜けて厳島神社にたどり着くなんてことがあるとは到底思えない。・・・しかし、それもまた物語なのだろう。

 この卒塔婆の話は都の人々の間で有名になり、これが清盛にも伝わった。さすがの清盛も心を打たれた。しかもちょうどその頃、清盛の娘で高倉天皇の中宮になった徳子(建礼門院)が懐妊した。清盛は徳子の安産を祈願するため、周りの人の勧めもあって、鬼界が島に流した者を赦免することにした。しかし康順と成経は赦免したものの、俊寛だけは許さなかった。清盛は俊寛を特に恨んでいたらしい。

 清盛曰く「康順法師の事はともかくとして、俊寛はたいそうわしが世話をしてやって一人前になったものなのだ。それなのに所もあろうに、自分の山荘、鹿の谷に城郭を構えて、何かにつけてけしからんふるまいがあったということだから、俊寛を許すなんてとんでもない」

 その後、鬼界が島に康順と成経の迎えの舟がついた。俊寛は、自分だけが取り残されることを知って、地団駄踏んで悔しがる。都では俊寛だけが帰って来なかったので、かつて俊寛が寺で使っていた有王(ありおう)という若者が、鬼界が島に俊寛を訪ねた。京から鹿児島沖の離島に旅するのは現代と違って命がけだったはず(注3)で、有王の決死の覚悟が読み取れる。

 有王は、ボロボロの乞食になった俊寛と再会した。俊寛は、身内のほとんどが自分よりも先に亡くなってしまい生きているのは娘一人だけだと知り絶望した。そして、娘のことは気がかりであったけれども、このまま生きながらえても有王に迷惑がかかると考え、それ以降は食を断ち、やがて亡くなった。有王は俊寛を火葬し遺骨を都に持ち帰った。その後、俊寛の娘と有王は、どちらも出家したという。

 飼い犬に手を噛まれた清盛の言い分もわからぬでもないが、随分と残酷な話である。流罪は助かる望みがわずかにある。しかしこのような惨めな死に方をしてしまったら人間の尊厳など有ったものではない。いっそのこと斬り殺された方がマシではないだろうか。

 ということで、序盤ではこんな感じで、人の恨み辛みが、少しずつ少しずつ膨らんでいく様が描かれていく。

(つづく)

*****
(注1)現在、奄美大島の東側に喜界島(きかいじま)という島があって、平家物語の鬼界が島とはここなのかと勘違いしてしまうが、これは違うらしい。鬼界が島は、現代の鹿児島沖にある硫黄島だと言われている。それから太平洋戦争の「硫黄島の戦い」で知られる硫黄島は太平洋の小笠原諸島にあって、これもまた混同しやすい。
(注2)勧請(かんじょう)・・・神仏の分霊を移し祭ること。
(注3)実際に強盗に襲われたりなどしたらしいが、俊寛の娘の手紙だけは、取られないように髪を結ぶひもの中に隠していたという。


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